#友崎くんチャレンジ
はじめに
季節もそろそろ夏に移り変わり、日増しに暑さが増していく…と言いたいところだが、日中に寝て夕方に目を覚ましている僕は特に季節の変化を感じていない。僕に夏の訪れを知らせてくるのは、この時期になるとセミの鳴き声よろしくうっとうしいまでに「最高の夏」を連呼するオタクどもである。ありもしない最高の夏とやらを欲しながら何もしないオタクたちのなんと哀れなことか。そんなオタクたちの対極にいるのが今回のメインテーマとなる友崎くんチャレンジをする人々である。あまりにも自然な導入過ぎて自分でも感動している。令和の太宰治こと屋久ユウキ先生が書く文章を熟読したので、僕も文才が身についたのかもしれない。
Let’s enlighten !
皆さんは友崎くんチャレンジというtwitter上のハッシュタグをご存じだろうか?もしご存じないのなら見てくるといいと思う。青春を生き生きと過ごす若者たちの葛藤と喜びに満ちた世界が垣間見えるからだ(笑)。しかし自分で見るのが億劫だという読者のために僕が説明しよう。このハッシュタグの起源は「弱キャラ友崎くん」というラノベである。このラノベの表面的な主題が何かというと脱インキャである。もう少し詳しく紹介すると、学内カーストトップ美少女日南葵の指導の下、カースト底辺インキャ友崎文也が陽キャに進化していくシンデレラストーリーである。日南葵は毎日具体的な課題を与えてそれをこなすよう友崎に求めている。課題の内容は、女子3人以上に話しかける、陽キャ男子を弄る、女の子を誘って二人で遊びに行くなどいろいろだ。もちろん話が進むにつれて難易度も上がっていく。そしてこの課題は日南によって設定された目標を達成するためのものである。目標は3つに分かれている。
1.小目標-家族、または身近な友達に「彼女でもできた?」と聞かれること。
ようは直接指摘されるほどの表面上の変化が起きたと認識されればいいのだ。
(友達のいない友崎に「身近な友達から」って言う日南葵、面白いですね。)
2.中目標ー3年に進級するまでに彼女を作ること
ちなみに友崎が日南にこの目標を提示された時点で彼は高校二年生の六月である。
作中でこの課題クリアするために最初に日南が選んだ女の子が6月より前から友崎に脈ありの女の子なんですがそこのところどうなんですかねぇ。
3.大目標ー日南葵と同じくらいのリア充になる
学年一の人気者になれと言ってるのである。もっと言えば大宮駅で待ちあわせをしているときに「あれって日南葵じゃね?」と言われてるのを聞いて驚く友崎に「私はこの地域の有名人だからね、顔が知れてるのよ」とドヤ顔で言えるくらいになれというわけである。大宮ってそんな狭い村社会なんですかね?都民なんでわからないんですけど。
僕が読み進めた3巻までの間に達成された目標は小目標のみである。中目標も達成されそうだったが、ある事情で友崎自身が目標達成を回避している。原作内時間で2ヵ月程度の間にこの進歩具合には脱帽する。(僕は20年弱キモいままだというのに)
他にも日南葵は服装、髪型、姿勢、話し方などを友崎に直接指導し、休日は擬似デートまでして彼のリア充経験を積ませたり、彼が課題をこなせば褒め、アドバイスをし、失敗したときやうまくいかなさそうな時は持ち前の人望をフルに活用してヘルプしてくれる。これが原作内における脱インキャのプロセスでありストーリーの根幹をなす設定である。
友崎くんチャレンジとは?出所は?人気は?彼女は?調べてみました!
さて、ここからが肝心の友崎くんチャレンジの話だ。このラノベは現在大変な人気を博している。かの有名な文芸雑誌「白樺」に勝るとも劣らない日本文学史史上最高の文芸雑誌「このラノベがすごい」では2020年文庫部門で三位にランクインし、アニメ化も決定している中高生に大人気の作品である。中高生というのが創作物に最も影響を受けやすい年代だからか、読者の中から友崎くんのように脱インキャをめざして行動し始める人々があらわれたのだ。友崎くんの原作にならい、小中大の目標を立て毎日決めた課題をこなしていくかれらは友崎くんチャレンジのハッシュタグで自分たちの行動や課題を報告し、同志をフォローしてお互いに評価しあったりしながら切磋琢磨しているアカウントが見ている限り多いと思う。原作者である、令和の太宰治こと屋久ユウキ先生がtwitterで自身の作品について大っぴらにエゴサーチを行う方なので、それも相まって友崎くんチャレンジというムーブメントは実質作者推奨のものとなり、さらなる広がりを生んだのだと予測される。
ここまで書いて憶測で書くのはよくないと思い友崎くんチャレンジの発祥を探ってきたので報告しよう。このはハッシュタグをuntil検索でたどって行ったところ、タグとして一番古いツイートは2018年8月3日であったが、友崎くんチャレンジという単語が確認された一番古いものは2018年7月30日である。この4日間の差はなにかというと、友崎くんチャレンジを始めたツイ主がハッシュタグ化したのが8月3日であるというだけだ。この創始者は初投稿の日から毎日欠かさず投稿を続け、友崎くん界隈の人々に少しづつ認知されていたようである。しかし彼のチャレンジが200日目を越えても他のアカウントがタグを使うのは全く観測できなかった。(一つだけ2019年5月20日から友チャレを始めたアカウントはあった)。しかし転機が訪れる。2019年6月9日、作者である屋久ユウキ先生が、200日以上欠かさず投稿をする友チャレ創始者の方を自身のツイートで画像とともに紹介したのだ。そのツイートは7000件近くのRTと18000件のいいねを集め一気に友崎くん界隈に認知されたのだ。この日を境に多くの中高生が#友崎くんチャレンジを始めたのだ。このムーブメントは作者の宣伝からちょうど1年たった今でも毎日投稿がなされている。
余談だが友チャレの開祖は2019年10月10日で自身のチャレンジが1周年を迎えたことを理由にチャレンジを終了し、それ以後はほとんどtwitterに顔を出さずログアウトしていると思われる。彼は週ごとに目標を立て実行していくスタイルであった。365日間の全てのツイートを読んだが、徐々に成長していき1年を迎えるころには会話も自然とでき、知らない人との会話にも抵抗がなくなっているようであった。残念ながら彼女はできなかったようだが、切磋琢磨する同志もいないなかトライ&エラーを繰り返し、よく継続したと思う。最後のツイートを見たときは思わず「痛みに耐えてよく頑張った、感動した!おめでとう!」と小泉元総理ばりに叫んでしまった。
若い人には通じないですね…
ゲゼルシャフトの住人
この友崎くんチャレンジに参加しているのはどんな人たちなのだろうか?謎を調べるべくこの1週間以内に友チャレのタグを使用しているアカウントを片っ端からリストに入れツイートやプロフィールなどを見てみた。まず、継続的に友チャレを行っているアカウントは40人程度であった。鍵垢などは見れないが内容の性質上、公開垢でやっていない人間はかなり少ない考えられるので、僕が観測できないものを含めても50人が関の山だろう。50人というと少ないと感じるかもしれないが、この難行を続けている人間が50人もいるのは割とすごいと思う。2019年6月9日の屋久先生の投稿以来、数多のアカウントが友チャレをやっていたが毎日ツイートするのに疲れるからか、すぐやめてしまうアカウントも多いのだ。まさしく継続は力なりというやつだろう。しかし友崎くんチャレンジャーたちの最も評価に値する点は別にある。原作では友崎文也に最強の師である日南葵がついいているが、現実の彼らには師匠がいないのである。自分で課題を決め、自分で反省をし、自分でミスや失敗をフォローしなくてはならないのである。彼らは友チャレの性質上、自分より上位の参考になる意見をくれる人間にアドバイスを求められないというハンデも負っているのである(なぜならクラスカーストを上げていこうとするときに教えを請えば、明確な上下関係ができてしまい不利になるからだ)。こんな状況、作中の友崎くんの数倍はハードモードだ。にもかかわらず彼らは果敢に挑戦し続けている。彼らは失敗も隠さずツイートし2ヵ月くらいすると、自身でも変化を感じたと言うようになる場合がほとんどである。こうしてみると、友崎くんチャレンジャーって努力を継続でき、他人の助けがなくても自分の目標を少しずつ達成できるかなり有能な人種ですね。自己責任論者になる素質たっぷりですよ。
しかし良い面ばかりではないと思う。彼らのツイートを見ていると手段が目的となっている人が多いのだ。リア充になることが目的なのはわかるが、人生を楽しむためにリア充になっているはずなのである。ところが、「今日は何人に話しかけた。あんまり返事をしてくれなっかた人がいたので次は話してもらえるようになりたい」、「クラス内の勢力図的にどのグループに入ればいいか悩んでいる」といったようなクラス内での地位を確立するために他人を利用するかのような投稿が散見されるのだ。これは作中でチャレンジャー側の友崎文也よりも指導者側の日南葵の思想に近く、3巻において彼女が乗り越えるべき課題として明示されているのだが、意外と読者はこのことに無自覚であるようだ。だからこそ最新刊まで追っているような、コアな読者層であるはずの友崎くんチャレンジャーも同じような思考に陥ってしまうのだろうか。彼らは心開ける友人を探しているわけではなく、ただリア充になりたいだけである。だからインキャと呼ばれるクラス内カースト下位の友人を作ろうとしていない。クラスというゲマインシャフト的な世界の中にいるのに、ゲゼルシャフト的世界観で生活しているのはあまりにも虚しくないか?
失われた青春の亡霊
この記事のために延々と友崎くんチャレンジ界隈を見ていて、ある界隈のことが頭に浮かんだ。それはナンパ師界隈だ。この界隈についてはしっかりと調べていないし調べたくもないのだが、たまに興味本位で覗きに行く。界隈には何人かの教祖的なナンパ師がおり、彼らのもとに弟子を名乗る人々がついて、ナンパの方法や脱非モテテクなどを学び、それぞれのグループを形成している。彼らも友崎くんチャレンジャーのように、日ごろの成果を報告しあって相互にモチベーションを保っている。そして彼らの教祖達が共通して主張することの中に「女を人として見るな、モノとして見ろ」というものがある。これもある意味友チャレの負の面に似たものを感じないか?
ナンパ師界隈を形成するメイン層は大学生~30代前半で、それまで女性関係で報われない人生を過ごしていたインキャ~普キャ的な人々が多い。ようするに年齢層が違うだけの友崎くんチャレンジ界隈なのだ。いまだに青春時代の真っただ中にいる友チャレ民のほうはまだ純粋さを感じるが、青春時代の全てを棒に振っているナンパ師界隈は半ば女性への復讐心のようなものを原動力にしており醜悪さが目立つが....
まあ友崎くんチャレンジを通じて中高時代にちゃんとした青春を送れば、ナンパ師界隈みたいなものにたどり着かないと考えれば前者のほうがましなのかもしれない。しかし悲しいかな友崎くんチャレンジを通じて彼女ができた人は今のところ観測できていない。彼らの弱点は日南葵のような女性の味方がいないことであり、異性攻略にはかなりハードルが高いのだろう。唯一、「付き合う一歩手前です」というようなツイートをしている垢をみつけたが、悲しいことに彼はもともと陽キャグループにおり、より陽キャになりたかったから始めたという役に立たないサンプルだった。あとは本人は女性と仲良くなれていると思って成果報告ツイートをしているが、よく読むと「それは勘違いかお情けだよ」と言いたくなるようなものばかりである。
やっぱり、オタクに恋は難しい。
おわりに
友崎くんチャレンジをここまで熱心に調べた人間はいないのではないか。なんなら作者よりも詳しいかもしれない。アニメ化したころには友崎くん界隈の重鎮認定間違いなしである。今回はtwitterの1ムーブをとりあげているので、実際のツイートを引用したいが、面倒なことになると嫌なので作者のツイートに限って掲載した。気になる読者諸君は自分でタグを調べることをおすすめする。
ここまで8本の友崎くん記事を書いてきたが全部で約2万字程度である。文庫本の1ページが600字程度なので、文庫本換算にして33ページだ。かの偉大な俺ガイルの作者渡航先生は「弱キャラ友崎くん」(小学館ライトノベル大賞応募作品当時は「満点飾りの頑張り論」という題名)を評してこう言った。
70ページに1行くらいの割合で訪れるちょっとおかしみのあるセンテンスは好きです
(2016年第10回小学館ライトノベル大賞講評)
僕のこれまでのブログに1行でも面白いと感じられるセンテンスがあったのだとしたら、僕は2016年の屋久ユウキ先生を超えたということに違いない。ライトノベル作家デビューも夢じゃなくなるということなので、もし面白いと思った方は教えてほしい。